ひとりごとですけども

ひとりごとをひとり呟く場所

お天道様が見てる

ぼくは特定の宗教を信仰しているわけではない。ぼくの祖母は熱心な仏教徒だったし、ぼくの出身中学はプロテスタント、ぼくの従弟はカトリック教徒だ。神社にいっても、教会にいっても、同じようなものを感じて同じようにお祈りしている。テストの前とか、逼迫した危機に際したときだけ神様に心から祈るタイプの無宗教信者だ。それでも、ぼくの心の中には神様がいて、お天道様は見てるのだと感じることがある。

この夏、ぼくは母親の反対に抵抗して黙ったままロシアへの旅程を組んでいた。一週間前にスペイン旅行をくむことで、旅行会社からの書類が届いても怪しまれないようにする徹底ぶりだった。半年間でこつこつ地道に貯金して、旅費だってなんとかした。

そんな旅行の初日、乗り換えのシェレメーチエヴォ国際空港で携帯を開いたぼくは、自分の血液が頭から、つま先までザっと引いていく音を聞いた。ぼくが人生でいちばん、死から遠いところに逃げてほしい、祖父が救急車で運ばれたというのだ。

ぼくはロシアに出発する前日、祖父の家にいた。まだスペイン旅行の時差ボケがなおっていなかったけれど、ぽつぽつ交わした会話でぼくのおすすめの本の話をしたりしていつも通りだった。祖父は、ぼくが飛行機で離陸してすぐ、ぼくに電話をくれていた。

これが最後になってしまったらどうしよう。そう思うとぼくの冷えてしまった肝はうまく血液を運べなくなってしまって、いつも人並みはずれて暖かいぼくの掌は、おどろくほど冷たくなっていた。

幸い翌日には、祖父はすっかり元気になっていたのだが、ぼくの初めての悪だくみは出発後10時間でとん挫した。祖父は、いつもは体調不良とは無縁の人で、救急車とはてんで縁のない生活を送っている。それなのに、ぼくの悪だくみは想像もしなかった祖父の危篤で幕を開けた。お天道様、地球にはこんなに人がいるっていうのに、本当に僕をよく見てるよなあ。