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夜道を家に帰る
その道中で嗅ぐ、洗濯機をまわしたとわかる換気扇のにおいがすきだ
お風呂を焚いたときの換気扇のにおいもすき
知らない誰かの暮らしのにおいだけど、ぼくにも優しい、懐かしい不思議
たまに、ぼくはもう人生においてもうまともにはなりえないと感じる
それは絶望に似ているけど、深刻さにはどこか欠けていてぼくはまだ絶望はしない
急に、帰る場所がないことに追い詰められる夜がある
でも絶望じゃない
そういう夜に、家に帰る道でこのにおいをかぐのが大好きだ
知らない誰かの、帰る場所とか、まともさとか、優しさとかを少し分けてもらう
絶望はしない、そこまで先を見通せない
ぼくが家で一人、洗濯機をまわして、お風呂を焚くとき
誰かが外でそのにおいをかいで、なにかを受け取れているとしたら、すてきだ