インクのオルゴール
ぼくは本屋さんが好きだ。
本のことを考えた誰かがつくった棚を見るのも楽しいし、いつもは手に取らない本に出合う偶然が大好きだ。
相性のいい本屋さんは何時間だっていられる。小学校のころ、誕生日に大きい本屋さんに連れて行ってもらってとてもうれしかったことを覚えている。
本はぼくをまだ見ぬ新たな世界へ連れていってくれる扉だ。そして本屋さんは本との出会いの場だ。でもそれだけじゃない。
幼い頃、寝しなに読んでもらう絵本が大好きだった。自分でそらんじることができるほど読んでもらってなお、毎晩だってねだっていたらしい。
誰かがぼくをほめてくれる時、そこには本の恩恵があったし、ぼくはよく大好きな人から本をもらった。本は一緒に成長する相棒みたいだった。
だからそんなぼくにとって、本屋さんは思い出のオルゴールみたいなものなのだ。印刷されたインクのにおいを感じると幼い頃愛に包まれていた夜に戻ったみたいな気がする。
本に対していいイメージしかないのだから、本屋さんを好きにならないわけないのだ。本を好きな人や本に詳しい人がぼくを接客してくれるのもうれしい。
ぼくはなるべく、個人経営の本屋さんで本を買いたい。それはできるだけ多くぼくの好きな場所が日本に残ってほしいというきもちからだ。
それでも、年々店じまいしてしまった本屋さんを見かける。そういうときぼくは、ここは誰かにとって大切な場所だったろうになぁと思って悲しくなる。
ぼくはこれからも本を買うだろう。本屋さんが大好きなのだから。